岩手では全国平均と医師数の格差が拡大している
人口10万人あたりの全国の平均医師数は、2016年度に251.7人と、統計開始以来初めて250人を突破しています。平均医師数は毎年約7人ずつ右肩上がりで増加しており、全国的に見ると、徐々に医師不足が解消されつつあるといえます。しかし、岩手県については事情が異なり、人口10万人あたりの医師数が大きくかい離しているのです。
2010年度は、岩手県の平均医師数が193.7人に対して、全国平均は230.4人でした。その差はおよそ37人ほどでしたが、2014年度には岩手県が平均204.2人、全国が244.9人と、初めて40人以上の差が開いてしまったのです。その差は年々開く一方で、この数字から岩手県の医師不足事情が垣間見えます。なお、2016年度の平均医師数は全国ワースト7位となっています。1平方キロあたりの医師数も0.17人(全国平均0.85人)と、北海道の0.16人に次いで悪い水準となっています。
ただ、これはあくまで平均でしかありません。10万人あたりの場合、京都府は334.9人、徳島県が333.3人もいるなど、全国平均を遥かに上回る府県がいくつかあります。これらが全体の数字を押し上げていることには注意が必要です。しかし岩手県の医師不足が深刻化しているのは事実で、特に山間部の自治体などへき地で顕著な傾向が見られます。他の県もそうですが、お世辞にも医療サービスが全域に行き届いているとはいえないのが現状です。
岩手県の医師確保対策
全国的に見ても、岩手県は医師不足が深刻になっていますが、様々な取り組みによって医師の確保に乗り出しています。中でも目を引くのが女性医師向けの育児・職場復帰支援と、医師確保対策室の2つです。これらは他の地方自治体でも取り組まれていますが、岩手県は特に力を入れています。
女性医師向けの育児支援・職場復帰支援を事業化
岩手県では、女性医師が活躍できる環境整備に努めています。「女性医師就業支援事業」と名付けられた事業で、主に女性医師の育児支援と職場復帰支援が柱となっています。女性医師は結婚や出産をきっかけに退職するケースも珍しくありません。しかし、育児との兼ね合いもあって職場復帰は難しいのが実情で、ブランクも足かせになることから、復帰を断念する方も多数います。
このような事情もあるためか、岩手県は女性医師が仕事と育児を両立できる場を作ることを目的にこれらを事業化しました。育児支援事業では、女性医師が就業形態やライフスタイルに沿った保育場所の確保を目的としています。
もう一つの職場復帰支援事業は、復帰のための研修やセミナーが柱です。この2つを軸に、2007年以降様々な調整・支援が実施されています。それと合わせ、県立病院の医師として復職を支援する「育児短時間勤務女性医師」の公募も行われています。このような取り組みは全国的にも珍しく、女性医師の支援策としては画期的な内容といえます。
医師確保対策室の設置
岩手県は、医師そのものを確保するための対策室も設置されています。いわゆる””攻め””の取り組みで、即戦力となる医師の確保・招へいを目的に、2006年9月に誕生しました。保健福祉部など、複数の部局による共同管理組織で、今まで以上にスムーズな対応ができるよう様々な作が凝らされています。
他の地方自治体でもよくある事例といえますが、医師確保対策室の実績は目を見張るものがあります。2007年2月には、県外医師6人の雇用・招へいに成功しているのです。発足からわずか5ヶ月足らずで6人もの医師を確保できたことになります。従来の取り組みだと、このようなスピード対応は非常に困難です。しかし、岩手県の医師確保対策室はそれを実現しており、今後の地方自治体にとって良いモデルケースとなるでしょう。
2006年12月には、医師確保対策室でドクターバンク制度が開始しています。県職員として3年間の雇用期間を設け、最初の2年は県内の自治体病院などで働き、3年目は国外も含めた研修を可能にする制度です。柔軟性が高い医師採用プランでもあり、年間5人のバンク登録を目標にしています。こちらも独自性が高く、目が離せない取り組みといえるでしょう。