医療業界を悩ませる2025年問題
医師の需要が高まる中、医療業界で密かに囁かれているのが2025年問題です。初めて聞く方もいらっしゃると思いますが、地域医療のあり方が変わる可能性も十分考えられます。特に今後地方などで医療に携わるなら、決して他人事ではない問題といえます。なぜなら、今後の医療に対するニーズが変化するだけでなく、地域医療のあり方にも影響が及ぶ可能性すらあるのです。こうしている間にも2025年が刻々と近づいていますが、そもそも2025年問題とは何か、そして地域医療はどう変わっていくのでしょうか?
医療・介護需要が最大化する年が2025年
戦後の世代としては一番多いとされるのが団塊世代です。2025年問題とは、この団塊世代が75歳を迎える2025年に、医療・介護需要が最大化する問題を言います。つまり医師に関するニーズも最大になる可能性がありますが、それ以上に深刻な問題となりうるのが社会保障費です。2025年には社会保障費もピークを迎え、150兆円近くにまで上ると予測されています。
こうした団塊世代の医療・介護ニーズ最大化と、社会保障費の増大を含めて2025年問題と言われますが、解決するために「地域医療構想」が急ピッチで進められています。地域医療構想は、2025年に必要な病床数などを予測し、地域医療体制を整えるためのものです。各都道府県が医療のニーズ(在宅医療を含む)を踏まえ、最適な医療のあり方を検討しています。都道府県はそれぞれ地域を複数に分け、エリアごとに必要な病床数などを策定します。
地域医療構想は、2025年問題を解決するための重要なファクターになります。日本の医療は国ではなく、各地域が細やかなサービスを提供し、支えていく必要があるからです。しかし利用できる医療のリソースには限界があります。このため、限られたリソースを最大限活用するためにも、地域医療構想が欠かせないのです。
無駄を省き、病院の効率化を図ることも重要ですが、これも地域医療構想が必要な理由といえます。今後は使えるリソースも徐々に減ると予測されているため、適切な医療サービスを提供するためには効率化が欠かせません。そして地域間の医療格差を減らし、現在の国民皆保険制度を維持することにも繋がります。
引用:http://kamonomiya.org/2017/08/2025-a201.html
地域医療構想の医療法での規定
地域医療構想は医療法で具体的に規定されています。特に重要なポイントは、各都道府県が基本医療計画の中で地域医療構想を定めるよう決まっている点です。仮にこの規定がなければ、基本医療計画に地域医療構想を盛り込まない都道府県も出てくるでしょう。また2025年問題に対処できず、医療サービスの破たんに繋がる恐れもあります。なお、医療法では、下記のような内容を基本医療計画に反映するよう規定されています。
- 構想区域ごとの必要病床数
- 構想地域の病床の分化・連携に必要な事項(厚労省が定めるもの)
- 将来の人口構造の変化・医療需要を見通すこと
少しややこしいですが、将来を見据えた基本医療計画を作成し、各都道府県の地域医療構想に反映することが求められています。では、地域医療構想はどういうプロセスで策定・推進されるのでしょうか?
地域医療構想の策定・推進の過程
地域医療構想を策定する際、まず行われるのが構想地域の区分けです。基本構想では、地域を細かなエリアへ区分し、それぞれの地区で必要になると考えられる病床数を設定します。構想区域分けは2次医療圏が原則としていますが、人口規模などに応じて自由に設定できます。ただし、一部の県を除いて2次医療圏と同一の構想区域に分けられています。
次に行われたのが基本病床数の設定です。2025年を基準に病床数を予測し、更に高度急性期~慢性期まで4つの医療機能別に推計しています。ただし、慢性期は医療の必要度が低いとされ、患者の7割程度を在宅医療で対応するとしています。
そして3つ目のポイントが病床機能報告制度です。必要病床数の推計と医療機関の病床数がかい離していると意味がありません。このため、2014年に病床機能報告制度が制定され、各医療機関が都道府県へ病床数を報告するよう義務付けられました。
これらを基に、推進するための役割を担うのが地域医療構想調整会議です。特に日本は民間の医療機関が多いため、自治体が病床数の把握・コントロールをしづらい側面があります。こうしたギャップを埋めるため、地域医療構想では構想区域ごとに調整会議が設立されています。なお、調整会議は医療・福祉関係者や団体、市町村などが参加し、分化や連携について協議を行う場と位置付けられています。
実現により地域の医療はどう変わる?
このように、4つのプロセスによって地域医療構想は成り立っていますが、地域医療はどう変化していくのでしょうか?2016年末には全国の地域医療構想が出揃いましたが、そこから見えてきたのは病床数のかい離です。およそ39の道県では、必要数と需要予測がかけ離れており、大幅な調整が必要とされています。この実情からは、病院の統廃合または新設が進み、地域の医療機関数も大きく変わると予測できます。
また、病床機能の転換も考えられるでしょう。地域医療構想策定時点では、高度急性期と急性期の病床数が半数以上を占める結果が出ています。しかし、2025年の需要予測を実現するには、これらの病床を3割程度削減・転換する必要があります。特に大規模病院では大幅な転換が進むでしょう。一方で増えると考えられるのが回復期の病床です。リハビリや隊員の支援を行うための病床で、2025年には38万床へと増える見込みです。
他方で、新たな受け皿として注目されているのが在宅医療です。在宅医療に移行する患者数は30万人と予測されていますが、まだ受け皿や医療機関の体制が整っておらず、十分とはいえません。特に大都市部では大幅な増加が見込まれるため、早急な在宅医療の整備が必要と考えられます。このような背景があることから、医療機関はもちろん、医師の働き方にも大きな変化が生じてくるでしょう。患者の入院日数が減って在宅医療へと移るため、今後はフレキシブルに対応できる医師が求められます。