都道府県と市町村の仕事内容の分担について
地方自治体を大きく分けた場合、都道府県と市町村の2つに大別できます。しかし、それぞれは役割が異なっており、医療に限らず行政全般において分担されています。
主に都道府県は、その管轄地域において包括的な行政を手がけているのが特徴です。地域が抱えている広域問題や事務処理、各種行政サービスなどを担うほか、都道府県単位での取り組みが必要な事業全般も扱います。例えば、市町村単独では財政負担が大きい開発事業や、複数の自治体にまたがるインフラの整備などが当てはまります。
一方の市町村は、そこへ住まう住民に対して細かなサービスを提供するのが役割です。主に住民の生活に密接しているのが特徴で、例えば住民票の発行や税金・保険の手続き、上下水道など一部公共インフラのサービス提供を行います。複数の市町村が広域連合組織を立ち上げ、エリア単位で事業を行うケースもあります。
都道府県がマクロな行政を扱うとすれば、市町村はそれを補うためミクロな部分を扱うといえます。もちろん例外もありますが、基本的な役割は分担されていると考えて良いでしょう。こうした違いは、医療においても分担が図られています。では、どのような違いがあるのでしょうか?
都道府県が担う医療における役割
マクロ的な事業を担っている都道府県では、包括医療に関わるなど、主に以下のような役割があります。
- 都道府県単位での基本医療計画の制定
- 医療費適正化計画の作成
- 健康増進法に基づく住民への啓発活動・推進
- 各市町村の病院開設・増床認可
- 医療機関への指導や監査
このように、市町村単位では実施が難しい案件や、骨格となる各種計画の作成・制定を行うのが都道府県の役割です。特に注目すべきは基本医療計画ですが、これは都道府県単位で行われています。病床数の基準・目標の作成や医師の確保策など、地域医療の根幹となる基本方針を都道府県が作成し、市町村が病院の開設・運営などに役立てるのが特徴です。それと合わせ、医療費適正化計画も都道府県が担います。この計画を基に医療機関へアドバイスや指導を行い、適正・健全に医療機関の運営を行えるようにするのが目的です。
また、国が作成した健康増進法の啓発活動や、市町村が運営する自治体病院の新規開設・増床等の認可を出すのも都道府県の役目です。主に基本医療計画の基づいて認可の可否を決めており、更に基準病床数も考慮されます。地方では自治体病院の統廃合も相次いでいますが、こうした基本医療計画の影響を受けているのも実情です。
そのほか、医療機関に対しての監査なども実施しています。住民へ適正な医療サービスを届けるために指導も行い、医療格差が生じないよう務めるのも都道府県の役割です。
市町村が担う医療における役割
一方、地域の細かなサービスを提供する市町村は、都道府県とは違った医療の役割を担います。
- 国民健康保険に関する事務処理全般
- 健康増進法の啓発と市町村単位での計画作成
- 身近な医療体制の確保
- 在宅医療の推進
- 後期高齢者医療制度の事務処理(広域市町村連合)
上記のような役割を担っていますが、都道府県とは異なり、住民に則した分野の多さが目立ちます。特に住民向けともいえるのが、国民健康保険の事務処理です。自営業者らを対象にした国民健康保険の加入や脱退手続きなどのほか、給付金の支給、保険料の徴収などの事務処理が主な役目です。また、保険料の決定も市町村が独自に行います。
身近な医療体制の確保や、在宅医療の推進も行っています。各自治体にある医療機関の情報を提供したり、在宅医療の支援や相談窓口の開設など、都道府県単位では難しい案件を手がけています。
健康増進法の普及啓発は都道府県と被りますが、現在は市町村が国・都道府県の方針を基に計画を策定しています。栄養・生活習慣改善のアドバイスを広報などで情報提供し、イベントを実施して啓発活動を行う場合があります。住民それぞれに健康への意識を高めてもらい、病気を予防することが目的です。結果的に自治体が負担する医療費の抑制され、身近な医療体制の確保へと繋がります。
なお、後期高齢者医療制度の事務は少し事情が異なります。これは各都道府県の市町村が全て加入する広域連合が担っています。保険料の決定や徴収、給付金支給などの事務手続きを一括して広域連合が行う仕組みです。しかし加入自治体は市町村のみのため、都道府県の役割ではありません。
地方自治体の役割の意義について
地方自治体は、地方自治法の第1条で要旨が定義されており、地方の自治における民主主義確保の根幹となっています。実際は様々な役割を担っていますが、主にそこに住まう住民への行政サービスの提供や、生活上必要となるインフラの確保や支援などが地方自治体の役割といえます。
医療分野においての役割は上記の通りで、各都道府県が包括的な医療計画の作成や基本方針の策定を行います。そして、それぞれの市町村が住民を念頭におき、ミクロな医療サービスを手がけます。例えば、国民健康保険の管轄は市町村ですし、小・中規模な自治体病院は市町村が運営している場合も珍しくありません。
その一方、都道府県は医療を支えるための病院の開設の認可などを行い、更には基本病床数の方針も作成します。もしこのような役割分担が図られなければ、地域によって医療サービス格差が更に顕著なものになっているでしょう。都道府県は格差が生じにくいよう、基本方針に沿ってコントロールしているのです。
医療分野に限った話でも、地方自治体の役割は意義が大きいと判断できます。格差が起こっている実情もありますが、役割分担することで一定水準の医療サービスを提供できるのです。仮に都道府県が全ての医療分野を担うとなると、住民へきめ細やかなサービスが提供できなくなるでしょう。このため、医療においては地方自治体の存在が欠かせなくなっています。